建築業、リフォーム業、工務店など発注先から工事を請け負って仕事をする業界では、発注代金の未払いというトラブルがしばしば発生します。
下請け業者の立場が弱いことを利用され、様々な理由をつけて発注代金の支払いを拒否されたり一方的に値切されたり等の「下請けいじめ」に苦しむ下請け業者も少なくありません。このようなトラブルにあっても泣き寝入りせず働いた分の工事代金をしっかり回収するための方法や対処法を解説いたします。
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元請業者による代金不払いのトラブル例
- 元請け業者の経営状態が悪化し、発注代金を支払ってもらえない
- 元請け業者から不当に発注代金の減額を迫られる
- 手抜き工事等の不合理なクレームをつけられて代金を支払わない
- 何度も工事のやり直しをさせられ、追加工事の費用を払わない
代金不払いのトラブルには大きく分けて2種類のパターンがあります。相手方の資金繰りがうまくいかず発注代金を用意できないという単純なパターンと、 下請け業者の立場の弱さにつけ込んで様々な理由をつけて代金を支払わないパターンです。
後者の場合は自社で対処するだけでは債権回収が難しい場合が多く、支払督促や訴訟手続きなど法的効力のある対応をする必要が出てくるでしょう。
自社での回収方法や各種法的手続きの方法は以下で解説していきます。
下請け代金不払いによる債権回収の解決方法
まずは自社で回収を試みる
支払期限になっても代金が支払われない場合、まずは自社でできる回収方法から実践しましょう。具体的な方法は以下の通りです。
- 支払いがあるまで工事の目的物の引き渡しをしない
- 電話やメールで何度も催促する
- 元請け業者へ訪問し直接催促する
- 発注代金の催促はしつこく継続する
建設やリフォームなどの工事は請負契約に分類され、 請負契約の報酬は目的物の引渡しと同時に支払わなければいけない(報酬支払義務)と定められています。なので、工事の完成を伝えた時に発注代金の支払いについて待ってほしいなどと交渉された時は目的物を引き渡さないことは有効な手段です。
もうすでに引き渡してしまって発注代金不払いのトラブルに発展している場合は、催促をします。いきなり訪問するのではなくまずは電話やメールで相手の反応を伺いましょう。
発注代金を用意できないにしても一銭もないということは考えにくく、日々の支払いの中で優先順位をつけて後回しにされている可能性もあります。しつこく継続して催促することによって相手が折れて支払いをしてくれる相手が折れて支払いをしてくれる可能性があるので、粘り強く債権回収を試みましょう。
内容証明郵便で回収する
自社での債権回収では支払われる見込みがない場合は、弁護士名義の内容証明郵便で債権回収を試みます。内容証明郵便とは、「誰が、誰に、いつ、どんな内容の手紙を出したのか」を公的に証明してくれるものです。
内容証明郵便に記載する主な内容
- 支払金額
- 支払期限
- 支払先口座
- 期限が守られなかった場合の法的措置への移行
- 裁判地は支払金額に加え損害遅延金なども請求すること
内容証明郵便自体に法的な効力はありませんが、法的効力が発生する意思表示や通知の証拠を残すことができます。また弁護士に依頼することによって、相手も裁判を恐れて支払いに応じる可能性があるため非常に有効な手段です。
支払督促で回収する
内容証明郵便で支払いを請求しても不払いが続いている場合は支払督促に踏み切ります。支払督促とは代金を支払うように文書で請求するもので、簡易裁判所で手続きをします。支払督促をし仮執行宣言がなされても代金が支払われない場合強制執行に移行することができます。
支払督促の流れ
1、支払督促の申立て
相手の所在地を管轄する簡易裁判所にて必要書類を提出し申立てをします。裁判所の書記官が督促するに値する内容か判断します。
2、支払督促の発布
支払督促の申立書に不備がなく督促するに値する内容だと判断されると、支払督促が発布されます。発布された督促状を相手方に到達し、受領から2週間経過しても代金が支払われず督促異議の申立もない場合は仮執行宣言をします。
3、仮執行宣言申立て
相手方が支払督促を受領した日から2週間以内に督促異議を申し立てない時は仮執行申立をすることができます。仮執行宣言の申立てには期限があり、その2週間目の翌日から30日以内と定められています。この期限を過ぎると支払督促は無効になるので注意してください。
4、仮執行宣言の発布
仮執行宣言の申立書に不備等がなければ仮執行宣言が成立し、送達されます。仮執行宣言を受領した日から2週間以内に相手方から異議申立てがない時に、支払督促が確定します。
5、強制執行
相手方が確定した支払督促を受領してもなお支払わない場合強制執行の手続きをとることができます。この時に差し押さえる財産の調査をする必要もあり、差し押さえるものによって手続きや申し立て先が異なるので地方裁判所で確認しましょう。
支払督促のメリット
- 訴訟と異なり書類審査のみで手続き可能
- 訴訟の半分程度の金額で請求できる
- 申立人の申立のみで手続きができる
- 支払われない場合強制執行に移行できる
- 時効が中断できる
支払督促は訴訟と比べて手続きが簡単でかつ短期間で完了するというメリットがあります。具体的な証拠を提示する必要がないので契約書を交わしていない場合も申立てをすることができます。
申立に関わる費用も訴訟時の半額程度で済むため、債権額が高い方は裁判所費用を安く抑えることができます。督促をしても支払われない場合は強制執行に移行することができるので、債権回収の確率も高く費用も抑えられるというメリットがあります。
支払督促のデメリット
- 支払督促や仮執行宣言に異議申し立てをされると宣言が無効になる
- 異議申し立てがされると訴訟手続に移行する
支払督促や仮執行宣言を送達された相手方は、異議申立てをすることができます。異議申し立てがなされると支払督促や仮執行宣言が無効になり、且つ訴訟手続に移行します。
そうなった場合にそうなった場合は支払督促の申立て費用が無駄になり、さらに訴訟費用もかかるので裁判所費用が高額になってしまう可能性もあります。なので、相手方が異議申し立てをする可能性が高い場合は支払督促ではなく訴訟手続きをした方が良いでしょう。
訴訟手続きをする
相手方が催促や話し合いに応じない場合や支払督促に異議申し立てがされた場合、支払い代金を回収するには訴訟手続きをすることになります。訴状を作成し訴えを起こす裁判所へ提出します。
訴訟手続きの流れ
1、訴訟を提起する
まずは必要書類を集めて裁判所に訴訟を提起します。 訴訟に必要な書類は、訴状、証拠、証拠説明書、委任状、登記事項証明書、収入印紙、郵券等です。訴状と証拠は特に重要です。
訴状には誰に対して何を請求するか、その根拠は何かを記載されるため、裁判所はそれをもとに判決を下します。そして勝訴するには訴えを裏付ける確実な証拠が必要であり、契約書、取引書類、内容証明郵便、 E メールの内容など書面化された証拠が重要となります。
2、相手方が答弁書を提出する
相手方が訴状を受け取ると、相手方は代理人弁護士を選定し答弁書を作成することになります。請求の原因に対する認否や相手方の主張が記載されています。
3、第1回期日
第1回期日では訴状と答弁書の陳述、当事者が提出した証拠の取り調べが行われます。
4、続行期日
事件の争点や証拠を整理するために複数回にわたり続行期日が行われます。期日の回数は事件の複雑さにより異なります。
5、証人尋問
請負契約の取引担当者など事件の争点について詳しい人物が証人となり、証人の供述内容を証拠とする手続きです。
6、和解の検討
当事者間で互いに譲歩して紛争を取りやめるときは和解が成立します。和解が成立すると、強制執行をすることなく債権回収が見込めたり、早期解決により裁判費用を節減できるというメリットがあります。ただ和解が成立すると訴訟手続は終了するため、勝訴した場合の有利な判決を得る可能性を失うことになります。
7、判決
和解が成立することなく口頭弁論は終結した後は裁判所より判決が言い渡されます。判決は法廷で言い渡され、後日判決書が各当事者に送達されます。 送達方法は裁判所での手渡しか郵送か選ぶことができるので、勝訴した場合は裁判所に赴いて早々に判決書を受け取りましょう。
訴訟手続きのメリット
- 勝訴か敗訴か必ず判決が下されるため、解決に至りやすい。
- 代金不払いの理由が、工事不備等を理由とする難癖の場合は訴訟で決着をつけることで債権を回収できる。
代金不払いの理由が相手方の資金繰りがうまくいっていない等の単純な理由ではなく、工事不備などの不当な難癖で複雑化している場合は、訴訟手続きが有効であると言えます。判決により必ず決着がつくため、勝訴できる十分な証拠がある場合は早めに訴訟手続きをすることで債権の早期回収が見込めることになります。
訴訟手続きのデメリット
- 勝訴するには根拠となる契約書など十分な証拠が必要
- 訴訟提起に必要な書類が多い
- 裁判で決着がつくまで時間がかかる
- 弁護士に依頼するため訴訟にかかる費用は高額となる
訴訟手続きで債権回収をするには多くの時間と費用がかかります。訴訟内容が複雑であればそれだけ訴訟にかかる期間も長くなり、時間報酬制で弁護士費用を支払っている場合は訴訟が長期間になるほど弁護士費用も高くなってしまいます。
立替払制度で回収する(元請け業者が特定建設業者の場合)
元請業者が特定建設業者の場合は立替払制度で代金の支払いを請求することができます。特定建設業者とは、一般建設業者よりも高額な代金の工事を下請け業者に任せることができる元請け業者のことです。特定建設業者には下請け業者を保護する必要があり、直接契約をしていない2次受け・3次受けの下請け業者であっても保護しなければいけません。
立替払制度は、相手方の資金繰りができない場合や不当なクレーム等で支払いを拒否している場合だけでなく、相手方が倒産している場合でも適用されます。元請業者が特定建設業者かどうか調べて立替払いの申し出をしましょう。
債権回収の際は事項に注意
元請け業者の支払い代金は、支払を受ける者でいつまでも請求できるとは限りません。 債権回収には時効が存在し時効が成立してしまうと 回収不可能となってしまいます。
時効期限について
工事代金を請求するには3年の時効期限に注意してください。工事終了時から3年間未払の状態が続くと時効が成立し、工事代金を請求できなくなります。 法的手続きを取らず自社で催促をしている場合であっても時効は進行するため、催促し続けても回収が見込めない時は時効が成立する前に法的手続きに移りましょう。
時効の中断事由
時効の進行を止める方法は以下の通りです。
- 裁判上の請求
- 支払督促の申立て
- 和解及び調停の申立て
- 催告
- 相手方が差押さえや仮差押さえの処分を受ける
- 相手方による債務の承認
時効を中断させるためには単に請求書を送るだけではなく、裁判所で請求しなければなりません。支払督促や調停の申し立てをするにしても裁判所を通して法的な手続きを行う必要があります。 裁判外でも催告という形で時効を中断させることができますが、催告後6か月以内に訴訟や支払督促などの手続きをしなければ効力が発生しません。
このような法的手続きを取らなくても相手方が 代金支払の債務を認めた場合も時効中断が成立します。この場合は、債務があることを認める書面を相手方が受け取り承認した日付を明記させることが重要になります。
トラブル防止の為の日頃からのポイント
- 見積もりの段階で施工環境や全体工程を吟味し元請け業者と確認する
- 契約書をきちんと作成して契約を取り交わしてから着工する
- 契約時に前金として代金の一部を払ってもらう
- 元請け業者に連帯保証人を立ててもらう
- 災害時の責任について定める
- 追加や変更の際の対処について定める
- 遅延損害金について定める
- 紛争が起こった際の対処について特約を定める
元請け業者による工事代金の不払いを解決するには、かなりの労力、時間、費用がかかります。支払督促や訴訟手続きをする場合は普段の業務と並行して行う必要があるため、他の業務の進行に影響するなど 大きな損害となります。
これらのリスクは、着工前に見積もり内容を確認したり、必ず契約書を取り交わすなど対策することで回避することができます。契約書では、トラブルになりがちな追加工事や内容変更などにも特約を定めることができるので万が一訴訟手続きに発展した際も重要な証拠となります。相手方の言い分に丸め込まれて妥協したり泣き寝入りしないためにも見積もり段階で内容を吟味し必ず契約書を作成して契約を締結すると良いでしょう。
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まとめ
元請け業者によって不払いにされている発注代金の支払いを受けるには諦めずに催促し続けることが大事です。催促に応じない場合であっても弁護士に相談・依頼をして然るべき手続きをとることで 代金の支払いを受けることができます。
自社での回収が見込めない場合や話し合いでは埒が明かない場合は、時効が成立して相手の債務が消滅してしまう前に適切な手続きを取って債権回収を成功させましょう。