証拠がなくても債権回収や債務不履行請求・損害賠償請求を諦める必要はありません。「弁護士会照会」制度によって重要な証拠を収集することができる可能性があります。
たとえば、訴えたい相手の情報が部分的にしか分からない場合に、弁護士が該当団体に照会して、必要な情報を取得することができます。
この記事では、弁護士会照会の概要や照会できる情報の詳細、手続きや費用などを解説します。
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弁護士会照会とは
「弁護士会照会」とは、弁護士が引き受けた案件について情報が必要な場合に、公的機関や企業などの団体に対して、情報を照会できる制度です。弁護士会照会は弁護士法第23条の2に基づいており、弁護士だけができます。
照会できる対象や情報の内容には制限はありません。ただし、照会を受けた団体には回答の義務があるとされてはいますが、回答しなくとも罰則がないため強制力はありません。そのため、特に個人情報についての照会においては、本人の同意がないと回答できないなどと回答を断られるケースもあります。
弁護士会照会によって照会できる情報の内容
民事事件において、弁護士会照会によって照会される情報は、主には次のようなものがあります。
携帯の電話番号を携帯電話会社に照会
たとえば、配偶者の不倫相手について、携帯のメールアドレスしか情報がない場合、メールアドレスをもとに、携帯電話会社に対して携帯の電話番号を照会できます。
住所・氏名・銀行口座などを電話会社に照会
相手方の固定電話や携帯電話の番号が分かっていれば、電話会社や携帯電話会社に対して、住所や氏名、料金が引き落とされる銀行口座、契約年月日などを照会できます。ただし、銀行口座の照会時には、差し押さえなどの必要性を記載する必要があります。
弁護士会照会によって携帯電話の通話履歴が照会できるか気になる方も多いでしょうが、不倫などの民事事件では開示は難しいです。弁護士会照会よりも強制力がある民事上の手続きとしては、裁判などで利用する「文書送付嘱託」という制度があります。
病名・症状などを病院に照会
主に交通事故などで賠償金額を算出する必要性があるときに、病院に対して、病名や対象となる部位、通院している期間、後遺症における症状固定時期(これ以上の治癒が期待できないため治療を終了する時期)などを照会できます。
実況見分調書を検察庁に照会
同じく交通事故などで、過失割合(損害賠償額の比率)を算出する必要性があるときに、検察庁に対して、実況見分調書の閲覧や謄写(コピー)ができるよう照会できます。
銀行預金の有無・取引履歴などを金融機関に照会
遺産分割や離婚時の財産分与、債権回収などで、対象となる財産の調査を行いたいときに、銀行や郵便局などの金融機関に対して、銀行預金の有無や取引履歴などを照会できます。
金融機関に弁護士会照会を行う場合、顧客の個人情報を第三者に開示するのに抵抗があったり、紛争に巻き込まれたくなかったりなどの理由で、回答をもらえないケースもあります。
保有株式などを証券会社に照会
同じく遺産分割などで、証券会社に対して、口座の有無や保有している株式数、配当金などを照会できます。こちらも証券会社が回答を拒否するケースがあるため、証券会社名が絞り込まれていない場合は調査が難しい傾向があります。
生命保険契約の詳細を保険会社に照会
同じく遺産分割などで、保険会社に対して、生命保険契約の有無や詳細(契約日・契約期間・種類・保険金額・受取人など)を照会できます。
出入国記録を入国管理局に照会
事件において、相手方が日本にいなかったことを証明したいときには、法務省入国管理局に対して、出入国の年月日や利用した航空便名などを照会できます。
日本に在住している外国人の住所などを入国管理局に照会
事件において、相手方が日本在住の外国人の場合、法務省入国管理局に対して、住所や氏名、国籍や外国人登録番号などを照会できます。
店舗の営業者などの情報を照会
飲食店や風俗店、古物営業などの店舗が相手のトラブルにおいて、営業者などが不明な場合には、飲食店であれば保健所など、管轄する団体に対して営業者や代表者名・許可番号などの情報を照会でき、相手方を特定することが可能です。
そのほか、相手方が服役している場合には、法務省矯正局に対して刑務所名や収容年月日などを照会できるなど、弁護士会照会は広い範囲で利用することができます。
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弁護士会照会における照会先の内訳
「弁護士白書2019年度版」によると、2018年度に行われた弁護士会照会は21万6,474件です。照会先の上位は、警察(31.9%)・金融機関(31.2%)・検察庁(10.9%)・通信(6.4%)となり、この4つで約8割を占めています。
参照:弁護士白書2019年度版 第7章 その他の活動|日本弁護士連合会
「警察」への弁護士会照会が最も多いのは、刑事事件や交通事故の弁護のための照会が多いからです。同じく「検察庁」も、実況見分調書の取り寄せなど交通事故に関する照会が目的となります。「金融機関」には、銀行のほかに証券・保険会社などが含まれ、先述したように遺産分割などにおける財産調査を目的とする照会が多いです。
プロバイダへの発信者情報開示請求における弁護士会照会
「通信」は上位3つに比べて6.4%と割合が少ないですが、先述した電話会社への照会のほかに、プロバイダへの照会が含まれます。
インターネットでの誹謗中傷に対して、プロバイダに発信者情報開示請求を行うことがあります。その過程で、投稿がされたサイトの管理者特定のためのドメイン業者への照会や、特定されたサイト管理者に対して投稿者のIPアドレス照会などの、弁護士会照会を行うのです。
しかし、弁護士会照会には罰則などの強制力がないため、照会への回答が得られないケースもあります。そのため、実際には仮処分や訴訟などの手段が選ばれることが多いです。
弁護士会照会の手続き
弁護士会照会をしたい場合は、まず弁護士に案件を依頼することが必要です。
弁護士は案件の依頼を受けたら、所属している弁護士会に「照会申出書」を提出します。提出先の弁護士会では、申出書の内容に不備がないか、照会の正当性・必要性があるかなどを厳しく審査します。
厳格な審査を通過した申出に対してのみ、該当弁護士会の会長名にて団体の照会が行われます。
弁護士会照会の費用
弁護士会照会にかかる費用は、弁護士が所属する弁護士会によって異なりますが、1件につき7,000円〜10,000円程度が相場です。また、照会先の団体によっては印鑑証明登録などの手数料が別途生じることもあります。
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まとめ
弁護士会照会は、民事訴訟などにおいて相手方の情報が一部しか分からない場合に活用できる制度です。しかし、罰則などの強制力はないため、ケースによってはもっとよい選択肢が存在する場合もあるでしょう。
民事トラブルが発生したとき、弁護士会照会を含めて、どんな戦術で相手方と戦うかは、専門家である弁護士に相談するのが一番です。自分の個人情報が弁護士会照会で相手方に開示されて困った際にも、速やかに弁護士に相談するようにしましょう。