海外居住者や海外法人と紛争が生じた場合、日本の裁判所で、海外居住者や海外法人を訴えることができるのでしょうか。
国際裁判管轄の問題
ここで、国際裁判管轄が問題になります。
日本人・日本法人において、海外において訴訟を提起することは非常に困難です。
また、海外の国際弁護士の費用は非常に高く、日本において訴訟を提起することができれば、非常に助かります。
被告が日本在住の場合
まず、相手方が、日本在住であれば、日本の裁判所に訴えることができます。
これは、日本人であっても外国人であっても同じです。日本に居住し例れば、その者を訴えることができるのです。
外国法人であっても、事業所、営業所、代表者や担当者が、日本に住所があれば訴えることができます。
被告が海外在住の場合
被告が海外在住(被告法人が海外法人)の場合であっても、日本に裁判管轄があるとされることが多いのです。
義務履行地が日本の場合
日本で契約の債務や義務が履行されると定められている契約の不履行があった場合、裁判管轄が日本になり、日本の裁判所に訴えることができます。
金銭支払い外務は、日本民法上、義務履行地は持参債務であることが原則とされており、債権者のところに持参して支払うことが必要です。
ですので、金銭債務の多くは、日本が義務履行地とされますので、日本の裁判所に訴えることができることが多いのです。
不法行為地が日本である場合
日本で不法行為が行われた場合、裁判管轄が日本になり、日本の裁判所に訴えることができます。
日本において投資詐欺師が投資詐欺を行い、海外に逃亡した場合、不法行為に基づく損害賠償請求権を行使することとなりますが、この場合は、日本の裁判所に訴えることができるのです。
財産や不動産の所在地が日本の場合
日本に所在する動産や不動産に関する裁判の場合、裁判管轄が日本になり、日本の裁判所に訴えることができます。
管轄の合意があった場合
契約書において、日本の裁判所を管轄とする合意があった場合は、裁判管轄が日本になり、日本の裁判所に訴えることができます。
相手方に対する請求権が、まさにその契約書に基づき発生するものでなくても、関連する契約書であったり、関連しなくても、相手方との関係性においてその契約書の合意管轄が適用されてしかるべきような場合も、契約書における合意管轄があったものとして、合意管轄が認められ、裁判管轄が日本になり、日本の裁判所に訴えることができることもあります。
合意管轄が海外の場合
また、反対に、合意管轄が、海外になっていたとしても、上記の義務履行地や不法行為地、財産や不動産の所在地が日本の場合が日本の場合は、合意管轄にかかわらず、不法行為に基づく損害賠償請求を法的根拠とすることにより、合意の枠から抜け出し、日本の裁判所に訴えることができることも多いです。
すなわち、合意管轄が、海外になっていたとしても、その合意管轄の対象とする範囲が明快な範囲は限定されますので、柔軟に、合意管轄の範囲内か、合意管轄の範囲外かを判断することにより、柔軟に、日本の裁判所に訴えることができるのです。
海外への訴状送達
上記のとおり、日本の裁判所に訴えることができるとしても、海外居住者や海外法人に対して訴状を沿うたすることができるかどうかは別の問題です。
海外居住者や海外法人に訴状を送達することができなければ、訴訟を係属させることができません。海外へ送達をするには、条約等の取り決めによって、当該国の協力を得ることが必要になります。
具体的には、該当国の領事館に依頼して送達をする(領事送達)か、外務省経由で当該国の中央省庁を通して送達する(中央当局送達)か、直接郵便で送ることで足りる場合もあります。
個別具体的には、裁判所に確認し、事案ごとに、裁判所が具体的な送達方法を指定するようですが、概要以下のとおりです。
※ 領事送達とは、「管轄裁判所所長 → 最高裁 → 外務省 → 領事館 → 相手方」の流れで送達が行われる方法
※ 中央当局送達とは、「管轄裁判所所長 → 最高裁 → 中央当局 → 相手方」の流れで送達が行われる方法
なお、裁判所作成書面を含む全書面につき原告側での翻訳が必要となる場合は、すべて費用は原告負担ということとなります。
アメリカの場合
アメリカについて、領事送達ということとなります。必要書類としては、訴状・証拠説明書・書証・期日呼出状・その他訴状に同封するすべての書面について訳文が必要になります。
送達結果が判明するまでに5ヶ月ほどかかるようです。送達に5ヶ月かかるのであれば、別途、弊所にご依頼いただいて、アメリカにおいて訴訟を提起した方が早いと思われます。また、被告の受領が見込めない場合は、中央当局送達ということとなるようです。その場合、送達結果が判明するまでに8ヶ月ほどかかるようです。
中国の場合
中国について、中央当局送達ということとなります。必要書類としては、訳文(訴状・証拠説明書・書証・期日呼出状・その他訴状に同封するすべての書面)について訳文が必要になります。
送達結果が判明するまでに13ヶ月ほどかかるようです。送達に13ヶ月かかるのであれば、別途、弊所にご依頼いただいて、中国において訴訟を提起した方が早いと思われます。
香港の場合
香港在住日本人あての送達は、領事送達ということとなります。必要書類としては、特別な必要書類は特に無しということです。香港在住外国人(及び香港法人)についても、領事送達ということとなりますが、必要書類としては、相手方の理解する言語での訳文をつける必要があるようです。
また、領事送達では送達できないことにつき相当の蓋然性がある場合は、中央当局送達となり、必要書類としては、相手方の理解する言語での訳文が必要となり、書留航空郵便切手を納める必要があるようです。
シンガポールの場合
シンガポールについては、とにかく訴訟を提起することとなります。通常、海外への送達については、実務上、必要書類等細かい規定がありますが、シンガポールについてはこれがなく、必要書類、具体的な流れについては、担当部からの連絡を受けて随時対応することになるようです。
すなわち、特段、領事送達や中央当局送達も必要はなく、ふつうに郵送すれば足りるということのようです。
台湾の場合
台湾については、国交がないため、特に方式は定められておらず、特段、領事送達や中央当局送達も必要はなく、ふつうに郵送すれば足りる(日本語のものを郵送すれば足りる)ということのようです。送達結果が判明するまでに6週間ほどかかるようです。
フィリピンの場合
フィリピン宛て送達について、フィリピンとの間では二国間取り決めがないため、多くの場合は、フィリピン在住の日本人については、領事送達(送達期間:4~5ヶ月)となり、フィリピン在住外国人(フィリピン法人)については、管轄裁判所送達(送達期間:8~10カ月、場合によっては12ヶ月程度)となるようです。
タイ王国の場合
タイ王国宛て送達について、タイ王国在住の日本人については、領事送達(送達期間:3ヶ月程度)のようであり、特段翻訳文は不要のようです。タイ王国在住外国人については、確認中です。
公示送達
公示送達の要件は、住所、居所その他送達をすべき場所が知れない場合ですので、被告の所在調査を行い、それによっても住所・居所が判明しない場合か、住所・居所(所在)は判明したが、外国における送達によっても送達ができなかったなどの場合、公示送達が認められることとなります。
公示送達は最終手段であり、ハードルが高いです。また、公示催告をして裁判を有効に係属させたとしても、判決文だけもらっても、必ずしも強制執行できるとも限りません。
判決さえもらえば強制執行できるような場合であれば、公示催告でよいと思いますが、そうでないような場合は、相手方に訴状が届くようにするしかないかと思われます。
外国判決の承認
日本の裁判所に訴えた結果、勝訴判決が出たとします。しかし、その日本判決を、相手方の国が承認をして執行できるかは、また別の問題です。日本の判決を海外で行使するためには、外国の裁判所で承認及び執行の手続きを行う必要があります。
この点、当該国が、外国判決を相互に承認する国であるかないか(相互保証があるかないか)で変わってきます。この点、アメリカやイギリス、韓国、香港とは相互保障がありますので、日本の判決を承認をして執行してくれますが、中国との間では相互保障がありませんので、日本で判決を取ったとしても、それが中国国内で執行されることはありません。
執行手続き
海外における執行手続きはその国の裁判所で行う必要がありますが、その国の弁護士に依頼するほかありません。
海外の国際弁護士の費用は非常に高いですが、執行手続きでは、海外の国際弁護士に依頼するほかありません。