裁判では偽造証拠がしばしば提出されます。その相手方の証拠は偽造証拠かもしれません。最後まで諦めずに頑張りましょう。
相手方から決定的な証拠を提出されても諦める必要はありません
まさか相手方がそのような証拠を持っているとは思わなかった!
そんな証拠があるとは!
株券などないという話だったのに相手方から株券が提出されてきた!
裁判の後の方になってから振込票が提出されてきた!
相手方に都合の良い専門家の鑑定書が提出されてきた!
そんな書類にハンコを押したことがないのに!
隠し録音されていたのでもうダメだ!
裁判で偽造証拠が提出されるというのは本当ですか??
訴訟紛争裁判には偽造証拠が蔓延っており、偽造証拠を発見すれば逆転裁判を実現することができるが、偽造証拠を発見できなければそのまま完敗することとなる。
裁判で偽造証拠が提出されるって本当???裁判で偽造証拠が提出されるというのは本当ですか??にわかに信じがたいのですが。という話をよくします。しかし、たいていの裁判には偽造証拠が提出されていると思います。虚偽の証拠であれば偽造証拠、虚偽の証言であれば偽証証人です。偽証を行った証人は偽証罪で罰せられます。しかし、偽造証拠を提出してもそういうものはありません。だからでしょうか。裁判では偽造証拠によく遭遇します。
通常、まさか裁判に偽造証拠が提出されるなどとは思っていませんので、偽造証拠がもっともらしく裁判に提出された場合、まさかそんな証拠があるとは思わなかった、こんな決定的な証拠があるのならもう負けだ、完敗だ、と思い、諦めてしまう人が多いでしょう。
私も、弁護士になりたての時はナイーブで、まさか裁判に偽造証拠を提出する人がいるなんて、いるはずがないと思っていました。
しかし、私が弁護士になりたての頃、友人が離婚しました。その友人が言うには、離婚調停なんて、ちょろいと。こちらが嘘ばっかついたのに裁判所はそれを信じた。ほとんど離婚慰謝料も払っていない。収入も財産もほとんどバレなかった。とのこと。非常に裁判のことを馬鹿にしていました。そういう嘘や偽造証拠を看破する方法はないものでしょうか。
偽造証拠は偽造証拠であることを証明できる!
私は数多くの偽造証拠に遭遇し、それをどのように看破したかを思い返すうちに、一定のルールが存在することに気づきました。男性諸君であればたいてい経験があると思いますが、女性はたいてい嘘を見破ります。男性は「何故バレたのかな?」「今回は運が悪かった」くらいに思って同じことを繰り返すのですが、やはりバレてしまうのです。要するに、嘘を付き通すことはなかなか難しいのです。
我々は事務所名の通り普段はM&Aを行っています。M&Aの中では買収対象会社が提出してきた膨大な資料を精査し、会社の状況を正確に理解し読み取ります。これをデューデリジェンスと言います。このようなデューデリジェンスを行い、買収対象会社が出してくる膨大な資料の中から、その会社が経営悪化しているとか不良債権を保有しているとか、様々なことを看破します。
矛盾や不正確な情報は見逃しません。このようなデューデリジェンスを何百件もやってきたわけですので、裁判資料の中に虚偽や矛盾が潜んでいたとしても、容易に偽造証拠を看破することができるのです。M&Aのデューデリジェンスで提出される資料の量は、裁判の資料の量とは比べ物にならないほど膨大です。では偽造証拠の発見ノウハウというのは「気合と根性」なのか。違います。
これは我々の重要ノウハウですので、申し上げることはできませんが、一言で言うと、「ストーリーに合わない証拠を徹底マークし、尻尾を掴む」というのが重要だと思っています。
株券偽造事件
ある会社支配権争奪裁判でのこと、被告(弊職Client)と原告(元番頭)との株式の所有をめぐる争いです。被告(弊職Client)は、創業オーナーの子息で、A社の株式を相続している。創業オーナーはすでに10年くらい前に亡くなっている。
しかし、A社は、原告(元番頭)が支配し経営している。A社は、その名前と異なり、貸金業者(ヤミ金)である。創業オーナーである被告(弊職Client)の父親はかなりの人物であったようだ。A社は貸金業者(ヤミ金)だからいろいろなところに債権を持っており、被告(弊職Client)の家族もその地位を乱用し、A社の資金を自由に使っていた。原告(元番頭)は創業オーナーに対して暦年の恨みがあり、その子息である被告(弊職Client)を攻撃する手段として、A社の被告(弊職Client)に対する巨額の債権を請求しようとA社のオーナー株主であると主張している。
原告(元番頭)によると創業オーナーから昭和50年頃にA社の株式をもらっていたとのこと。にわかには信じられず、他方、とはいえ、創業オーナーはたくさんの会社を経営していたため、一つくらい、譲っているかもしれない。最近のことならともかく、そこまで昔のことはよくわからない。。しかし、原告(元番頭)が創業オーナーから株式を譲り受けた証拠は特段存在しない。
そういう状態だからこそ、もし仮に原告(元番頭)がA社のオーナーだと認定されたら大変なことであるが、まさかそんなことはないと思い、訴訟活動を行って、2年ほどたち、訴訟は終盤に差し掛かった。日本の訴訟は平均1年半程度であり、まず当事者同士で主張と証拠による立証を繰り返して、論点を減らしたうえで、最後に残った論点についてだけ、証人尋問を行う。
その証人尋問の段階に移行した。その時である。原告(元番頭)から「ようやく見つかりました」とのことで、創業オーナーから昭和50年前後にもらったというA社の株券が証拠提出された。厚さは2cmくらいの立派な株券である!しかもかなりの年数がたっているらしく、やや古ぼけている!!創業オーナーは原告(元番頭)にA社を譲っていたのか!??ここではたまた我々は、楽勝だと思っていた裁判の流れが急に変わり、絶望の淵に追い込まれることとなった。
そんなはずはない。証人尋問まであと3ヶ月である。証人尋問が終わると、裁判所は心証を形成し、判決が下りるか、そうでなくても敗訴的な和解になってしまう。我々弁護団は、こういうこともあるさ!ということで敗色濃厚、絶望放念状態であった。私は諦めきれず秘書に「東京都港区の全て文房具屋を訪問し、株券台紙を全種類一枚ずつあつめてくるように」と指示した。ほとんどやぶれかぶれであった。他の弁護士から、秘書をそんな無益なことに使うなと言われた。
しかし、1ヶ月ほどしたところ、秘書から「同じ模様の株券台紙」がありましたと報告が来た。株券は、株券台紙というものがあり、かなりの厚紙であるが、それをプリンター用紙として、プリンターで会社名や株数を印字して作成することが多い。文房具屋にはその株券台紙が売ってあるのである。その株券台紙には、1万円札のような透かしや複雑な模様が入っており、ある株券台紙が、原告(元番頭)が創業オーナーからもらったという株券に描かれていたのである。
しかしよく見るとその複雑な模様は、色遣いが異なっていた。形は全く同じなのだが、色遣いが違うのである。7色の色が薄く付いているが、その順番が違うのである。我々はその株券台紙の製造メーカーを調べた。日本には株券台紙の製造メーカーは4社しかおらず、4社の製造メーカーが複数の種類の株券台紙を製造しているとのこと。我々はその株券メーカーに問い合わせをした。
原告(元番頭)が創業オーナーからもらったという株券の台紙は、確かにその製造メーカーが製造したもののようだった。それだけでは原告(元番頭)が創業オーナーからもらったという株券を否定する理由にならない。あせった。しっかりした製造メーカーが製造した株券だということになってしまう。そこで、株券台紙の模様の色づかいが異なっていることについて直接問い合わせを行った。その製造メーカーによると「株券台紙の色遣いは3年おきにモデルチェンジしている」
「原告(元番頭)が創業オーナーからもらったという株券は、6年前のモデルである」。なんと!昭和50年前後の株券ではないことが確定した!!!原告(元番頭)は創業オーナーからもらったとして株券を「偽造」していたのである。なんとまた「偽造証拠!」。証人尋問の際に原告(元番頭)が「昭和50年くらいに創業オーナーからもらった!」と証言するので、株券台紙の製造メーカーの報告書を証拠提出したら、原告(元番頭)はタジタジになり、一気に裁判の流れが変わり、劇的な逆転裁判であった。
振込票偽造事件
ある会社支配権争奪裁判でのこと、原告(弊職Client)と被告(親族)とが株式の所有をめぐる争いです。みなさん、名義株 をご存知でしょうか。過去、商法上、会社を設立する際は7名の株主が必要だったのです。ですので、昭和の創業者の多くは、親せきや友人も含め必死で株主を集めて名前を借りて会社を設立したのです。
この名前を貸した株主が「名義株主」で、その株式のことを「名義株」と言います。名義株主は、通常、名前を貸しただけですので、会社の経営や支配には興味がないことが一般です。しかし、平成の時代になり、創業者もなくなり次の代になると、その株主が、名義株主なのかその反対の実質株主なのかよくわからなくなってしまうことがあるのです。
また、最高裁判所の判例では、名義株は名義株主の株式ではなく、実際に出資金を拠出した実質株主の株式であるということとされており、実際に株券を保有していてもその人は株主ではない可能性が存在するのです。また、実際に株券を保有していなくても、実際に出資金を拠出したのであれば、株主であるのです。
そこで、この会社支配権争奪裁判でも、親族同士で、会社支配権を争うにあたり、保有する株式が、名義株なのか実質株なのかが主要な争点になりました。被告(親族)が言うには、原告(弊職Client)が保有する株式は、名義株であり、実際に出資金を出資したのはその被告(親族)だというのです。原告(弊職Client)のお父様が会社を経営していた時期もあることから、我々はそんなことあるはずがないと考え有利に裁判を進めていました。
しかし、2年以上裁判が経過し、もうそろそろ裁判も終わりに近くなったところ、被告(親族)が「あさひ銀行の振込票」のコピーを証拠提出してきたのです。「長らく探していたがようやく発見した」とのことでした。その「あさひ銀行の振込票」は被告(親族)が原告(弊職Client)のお父様の代わりに出資金を振り込んだ振込票で、被告(親族)は原告(弊職Client)のお父様の名前をを借りたのであり、原告(弊職Client)の保有する株券は名義株であるということです。
われわれは、それまで有利に裁判を展開していたこともあり、「そんなことがあるはずがない」「他の証拠は揃っているのに」「ほとんど勝ちそうだったのに」とかなりの衝撃を受けました。裁判については、絶望の淵に追い込まれました。2年以上も続けてきた裁判の流れが一気に逆転され、弁護団は非常に暗い雰囲気になりました。
しかし弁護士としては仕事ですので、絶望的な努力を継続していたある日、私も絶望的な気分で、その「あさひ銀行の振込票」を眺めていました。そのとき、ふと閃いたのです。「この時期にあさひ銀行は本当に存在していたのだろうか?」と。今となっては忘れてしまいましたが、その「あさひ銀行の振込票」には振込日付が書かれていました。
私は、書店に行って、学生用の就職本(銀行業界編)を購入し、あさひ銀行がいつ誕生したのか、確認しました。すると、その振込日付には、あさひ銀行は存在しておらず、確か、その前身の銀行のみが存在していたことが判明しました。裁判の流れが再度大きく変わった瞬間でした。その裁判が勝訴に終わったことは間違いありませんが、そもそも弁護士年齢の浅い私には、「裁判でこんな証拠の偽造をする人物がいるのか!!」と非常に驚き、「自分は子供だった」ことを実感させられました。
偽造証拠を偽造証拠と証明するためにはストーリーが重要
偽造証拠を看破するために重要なのは、ストーリーの構築です。正しい証拠、すなわち「点」ですが、「点」と「点」を結ぶ「線」がストーリーです。ほとんどの正しい証拠を踏まえれば、おのずからストーリーは決まってきます。「点」と「点」を結ぶことによって作られる「線」であるストーリーがいかに自然で合理的で迫真性あるかが重要です。
そして、偽造証拠がこのストーリーに合わない場合、おそらくその証拠は偽造証拠でしょう。
「ストーリーに合わない証拠を徹底マークし、尻尾を掴む」というのが重要だという論拠です。
弁護士の仕事は少ない手掛かりの中から証拠を構築することである
その偽造証拠をどのように偽造証拠であると立証するのか、弁護士は、こういうことを、皆様と一緒に考え、悩み、混沌の中から見つけ出すことが仕事です。
我々は、そのような混沌の中から、有力なストーリーを発見し、やさまざまな作為、偽装、偽造証拠、虚偽証言、を発見することが重要であり、そこまでできれば、大逆転ではないでしょうか。諦めてはいけません!!