事件屋とは、弁護士の資格を持たずに法的業務を扱い、報酬を得る業者のことです。弁護士ではないため、法的業務を扱うことは弁護士法で禁止されています。
事件屋はお金を得ることを目的としているため、トラブルに介入してきます。高額な請求をされたり、トラブルが大きくなったりリスクしかないため、注意が必要です。
今回は、事件屋と弁護士の違い、誘い文句・手口について解説します。事件屋に騙されないためのポイントも紹介するので、ぜひ最後まで読んでください。
事件屋とは
事件屋とは、弁護士の資格を持っていない人が報酬を目的として法律業務を扱う業者のことです。交通事故や不動産・金銭問題などのトラブルに介入してきます。事件屋に依頼すると相手に不当な請求をしたり、依頼人に法外な報酬を求めたりするため、注意が必要です。
弁護士資格を持っていない人が報酬を目的として法律事件に関わることは、弁護士法によって禁止されています。違反すれば2年以下の懲役または300万円以下の罰金が科されます。
事件屋と弁護士の違い
事件屋と弁護士の違いは、被害者の代理人になれるかどうかです。弁護士は、弁護士資格を保有しているため、法的業務を扱えます。そのため、交渉の代理や仲裁など法的なサポートが可能です。
しかし、事件屋は資格を持っていないため、法的なサポートはできません。そのため、トラブルに介入してくるだけで、問題は解決できない可能性が高くなります。かえってトラブルが大きくなるリスクもあるため、注意が必要です。
また、事件屋の呼び方は、活動領域によって異なります。大きく5つで以下の通りです。
- 示談屋…交通事故などのトラブルに介入し、示談交渉として金銭を請求する
- 地上げ屋…地主や借地人などと交渉して土地の売買契約や物件の立ち退きを取り付ける
- 立ち退き屋…住民に悪質な嫌がらせなどを行い、強制的に退去させる
- 債務整理屋…債務者の債務整理を引き受け、法外な金銭を請求する
- 総会屋…株主総会を意図的に混乱させ、企業から利益を得る
これらをまとめて事件屋と呼びます。さまざまな事件に介入してくるため、注意しましょう。
事件屋の手口や誘い文句
事件屋は交通事故や金銭問題などのトラブルが起きたときに、専門的な立場であるかのように振る舞って近づいてきます。「全部任せてもらえれば大丈夫」などと言われますが、弁護士資格を持っているわけでもないため、大したサポートはしてもらえません。
事件屋の特徴として、事件屋とは名乗らず、金融業や保険代理業などと名乗るケースがほとんどです。ヤクザや暴力団組員と繋がっている可能性もあります。
また、弁護士法に違反しないために、慈善事業と吹聴してくることもあります。報酬をもらわなければ弁護士法に違反しないためです。しかし、その後に多額の報酬を請求されます。
事件屋はトラブルなど困っているタイミングで現れるため、サポートすると言われると信じてしまうケースが多くなってしまいます。実際に、トラブルがあった際は、弁護士に相談したり、交通事故であればまずは警察に連絡したりしましょう。
専門家のような立ち振る舞いをしてくるため、信じてしまうかもしれませんが、相手の身元をしっかり確認することも必要です。
事件屋が介入してくる事件
事件屋が介入してくる事件は活動領域によって異なります。事件屋が取り扱っている事件を知ることで対策も取りやすくなるでしょう。
- 示談屋
- 地上げ屋
- 立ち退き屋
- 債務整理屋
- 総会屋
それぞれ詳しく解説します。
示談屋
最近の交通事故の示談交渉には、ほぼ確実に保険会社の代理人が交渉します。そのため、交通事故に介入してくる示談屋は昔ほど多くありません。しかし、今でも示談屋が代理人として介入してくるケースは存在します。
示談屋は、代理人として示談交渉を進めて違法な報酬を得ようとしてきます。また、依頼人にも多額の報酬を要求してくる可能性もあるため注意しましょう。示談交渉と言っても交渉が難しくなると対応してくれず、泣き寝入りするような状況になるリスクもあります。
当事者の代理人として交渉する場合は、正式な委任状を持っているはずです。そのため、書類を確認してから対応してもらうようにしましょう。また、交通事故の場合は、必ず警察に通報しましょう。
仮に、被害者側になった時に、相手が警察に連絡しないでほしいと、後から示談屋が介入してくるケースもあります。このようなリスクもあるため、交通事故が起きた場合は、必ず警察に通報してください。
地上げ屋不動産
地上げ屋は、バブルのころの荒々しいイメージを持っている方も多いかもしれません。しかし、現代の地上げ屋の手口は、土地の借主に無理難題を押し付けて出ていかせようとします。
法外な更新料を請求したり、土地の値上げを要求してきたりします。このような契約に合意してしまえば、新地主との契約が成立してしまうため、悪質な要求はしっかり断りましょう。
契約内容を確認したうえで、相手に有利な内容だったり、不安があったりする方は弁護士に相談してみるとよいでしょう。
立ち退き屋
立ち退き屋は、大家の都合で賃借人を追い出したいときに、依頼を受けて嫌がらせを行います。深夜の騒音や迷惑行為を行い、強制的に退去させようとしてきます。場合によっては、空き家に迷惑行為をする人を入居させることもあるでしょう。
このような被害は被害者に有利になるため、何かあれば弁護士などに相談しましょう。終わってからでは、証明することが難しくなるため、注意してください。
債務整理屋
債務整理屋は、債務整理を扱い、金銭問題を抱えている人に介入してきます。しかし、債務整理は弁護士の資格を持っていないと行えません。
そのため、事件屋は何も交渉ができず、依頼しても問題が解決されることはありません。それにもかかわらず、さまざまな理由でお金を請求されます。
債務整理屋は金銭問題に介入することで、お金を請求することが目的です。そのため、間違っても債務整理屋への依頼は避けなければなりません。
相手の身元をしっかり確認して、不安があれば弁護士に相談しましょう。
総会屋
総会屋は、企業の株主総会に参加し不正な行為を行い、報酬を得ようとしてきます。手口としては、株主総会での妨害行為や脅迫・情報の漏洩などがあります。
企業や経営者に対して悪影響を与えることで、口止め料などとして金銭を要求してくるため注意が必要です。
現在では、総会屋に対しての取り締まりが厳しくなり、被害は減少しています。法律を理解しておくことで適切な対策を取れるようになります。
事件屋に依頼するリスク
事件屋に依頼するリスクは、主に以下の3つです。
- 高額な金額を請求される
- 新たにトラブルが生まれる
- 最後まで責任を持たない
事件屋に依頼することにメリットは1つもないため、リスクを避けるためにも事件屋への依頼は避けましょう。それぞれ詳しく解説します。
高額な金額を請求される
事件屋の目的はお金を得ることです。そのため、高額な金額を請求されるリスクがあります。しかし、弁護士法によって法律業務は扱えないため、「報酬」という言葉を使わずに近づいてきます。協力金や会費などの言葉を使ってお金を請求してくるため注意が必要です。
金銭の支払いを断ると脅される可能性もあり、共犯になると脅して口止め料を請求してくる場合もあります。
事件屋は大した交渉はしないため、トラブルの解決ができるわけでもありません。報酬を得ることだけが目的のため、トラブルが起きたときは弁護士などの専門家に必ず相談しましょう。
新たにトラブルが生まれる
事件屋はトラブルに介入し、不当な報酬を得ようとします。相手側に対しても高額な請求を求める可能性もあり、新たなトラブルが生まれるリスクがあります。
また、脅迫して強引な交渉をすることもあり、警察に訴えられれば依頼人も巻き込まれるかもしれません。
依頼人に対しても高額な請求をし、請求を断ると脅迫してきます。その際に共犯になるとさらに金銭を請求してくることもあるため、トラブルが大きくなる可能性もあります。
解決できないだけでなく、トラブルを大きくしたり、新たなトラブルが生まれたりするため注意しましょう。
最後まで責任を持たない
事件屋は、問題を解決することを目的としていないため、交渉が複雑になったときは簡単に投げ出してしまいます。高額な請求をしたり、強引な交渉をしたりするため、問題だけを残してしまうこともあるため、大きなリスクがあります。
事件屋に依頼することは、リスクしかありません。トラブルの解決もできるわけではないため、事件屋に依頼するのは絶対に避けましょう。困ったときは専門家に相談するのがおすすめです。
事件屋と絡むことによるトラブル例
ここからは、事件屋が絡んだトラブル例を紹介します。
- 示談屋
- 地上げ屋
- 立ち退き屋
- 債務整理屋
- 総会屋
これらの名称のトラブルについて、それぞれ詳しく解説します。
示談屋
2008年に福岡県久留米市で交通事故の示談交渉に仲介し、報酬を得たとして逮捕される事件があります。本来は被害者に支払われるはずだった保険金の約半分を報酬として受け取ったとして弁護士法に違反しました。
地上げ屋
2016年に地上げ業者が地主から土地を購入し、強引な立退きを行い、それに対抗したことで、建物裏の汚水管を壊すなどの嫌がらせを行いました。
2019年に土地の所有権が地上げ業者の関連会社に渡ったことで、その会社が無断でブロック塀を設置する工事を始めました。これに対して、被害者は仮処分の申し立て及び裁判を提訴し、敗訴します。
しかし、被害者は諦めずに控訴した結果、逆転勝訴の判決を勝ち取りました。
立ち退き屋
東京都内で地上げが目的として悪質なトラブルが相次ぎ、問題となりました。
発電機の騒音や貼り紙・大量のゴミを捨てられるなど、さまざまな嫌がらせが行われています。嫌がらせを行なっているのは複数の男性で、公園に座り込み住宅を監視しています。
このような悪質な嫌がらせが続いたことで、命を絶った方もあるようです。これらの迷惑行為は、法に触れないラインで取り締まることが厳しくなっています。
債務整理屋
2019年に弁護士資格を持たずに債権回収や債務整理を受任したとして逮捕されました。
1件あたり、10〜15万円ほどの報酬を得ており、30件ほどの仕事を受けたとされています。容疑者は民法の専門家で、大学院で教鞭をとっていました。
総会屋
総会屋が株主総会に出席し、不規則発言をしたり、長時間にわたって質問を繰り返したりして、株主総会の進行を妨害するトラブルが発生しました。
また、会社や社長の弱みを調べて会社を脅し、金銭を要求するなどの事例もあります。総会屋は、会社に対して金銭を要求したが、それに応じなかったことでこのような行為に及んだとされています。
事件屋に騙されないためのポイント
事件屋に騙されないポイントは主に以下の3つです。
- 弁護士に相談する
- 相手の身元を確認する
- 最低限の法的知識を身につける
事件屋に依頼することにはリスクしかありません。そのため、騙されないためにもポイントは押さえておきましょう。それぞれ詳しく解説します。
弁護士に相談する
交通事故の示談交渉や金銭問題などに困ったときは弁護士に相談しましょう。そもそも、法的業務は弁護士の資格を持っていないと扱えないため、ほかの方に相談するのは得策ではありません。
例えば、身内の親切でアドバイスをもらったとしても知識が間違っている可能性もあります。万が一、示談交渉が上手くいかなかったとしてもその責任を問うこともできません。
事件屋に騙されないためにも、トラブルを解決するためにも、トラブルが起きたときは、まず弁護士に相談するようにしましょう。
相手の身元を確認する
事件屋に騙されないようにするためには、相手の身元を確認しましょう。
事件屋は自分の身元を隠しながらトラブルに近づいてきます。そのため、弁護士資格を持っているかどうか確認する必要があります。
相手の身元を確認し、もし事件屋などの非弁護士であることが分かった場合、依頼するのは避けてください。また、すでに依頼してしまっている場合は、委任関係を解除するようにしましょう。
最低限の法的知識を身につける
事件屋に騙されないためには、最低限の方的知識を身につけることも必要です。
自分の権利や立場を法的観点から理解することで、事件屋の不当な要求や手法にも対応できるようになります。
事件屋はトラブル時の焦りがあるタイミングで近づいてくるため、知識がまったくない状況だと、相手の話を信じやすくなってしまいます。そのため、最低限の知識があるだけでも冷静な判断ができるはずです。
示談交渉などのときにも知識があれば最低限の対応もできるため、騙されないようにするためにも法的知識を身につけておくとよいでしょう。
まとめ
今回は、事件屋と弁護士の違いや誘い文句・手口について解説しました。
事件屋は弁護士の資格を持っていないにもかかわらず、法的業務を扱い、トラブルに近づいてきます。報酬はいらない慈善活動と言いながら近づいてきますが、目的はお金を奪い取ることです。
事件屋にトラブル解決のサポートを依頼してしまうと、トラブルの解決はできず、トラブルを大きくしてしまう可能性もあります。また、高額な金銭を要求されるリスクもあるため、デメリットしかありません。
事件屋に騙されないようにするためにも、相手の身元は必ず確認して非弁護士であれば依頼するのは避けてください。もし、交通事故や金銭問題などでトラブルが起きたときは、まず弁護士に相談しましょう。