仮差押えとは?債権者が裁判所に申し立てる流れや効力・期間・メリットなどを解説

債務者から債権を回収しようとしても財産隠匿や処分により回収できない可能性があります。財産隠匿や財産の処分への対処法としては仮差押えという方法があります。

仮差押えの意味や手続きの流れ、差押えとの違いを説明します。

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仮差押えとは?

仮差押えとは、債権者が債務者の財産を仮に差し押さえ、財産を処分できなくする手続きです。

債権回収したくても訴訟などの手続きをしているうちに債務者は勝手に自分の財産を処分するかもしれません。財産隠匿をする可能性もあります。債務者が財産を処分や隠匿をすると、債権者はその財産から債権を回収できなくなってしまいます。訴訟をしても債権の回収ができなければ訴訟が無意味になる可能性も考えられます。

仮差押えは債務名義取得後に債務者の財産から債権を回収するために、手続きにより預金や不動産などの財産を仮に差し押さえて、債務者が勝手に処分できなくするために仮差押えを使います。

債務者の財産をあらかじめ確保し保全することが仮差押えの目的です。

第二十条

仮差押命令は、金銭の支払を目的とする債権について、強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき、又は強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができる。

 仮差押えを使う場面は債権の保全など

仮差押えがよく使われるのは次のような場面です。

・債務者が財産の処分や隠匿をする可能性がある

・債権を回収するまで手続きなどで時間がかかる

 債務者が財産の処分や隠匿をする可能性がある

債権があったとしても債務者が大人しく回収させてくれるとは限りません。事業や生活、趣味などのために財産を浪費することもあれば、債権者に取り立てられることに不満を持って嫌がらせのように財産を処分するケースもあります。また、債権者に財産を渡したくないと考えて、財産隠匿などをするケースもあります。

債務者の財産隠匿や浪費、処分などがあると、債権者は債権回収という目的を果たせません。よって、債務者が財産の処分や浪費、隠匿などができないよう、財産を保全するために仮差押えが使われます。

債権を回収するまで手続きなどで時間がかかる

訴訟をしてそれから財産を差押えて回収となると、時間がかかることが考えられます。訴訟から債権回収までに要する期間は案件により異なりますが、1~2年ほどかかることも珍しくありません。債務者に財産の処分や浪費、隠匿などの意思がなくても、訴訟から回収までの期間に財産状況が変わってしまうことは十分にあり得ます。債務者が生活費や事業費などの捻出のために財産処分することも考えられるはずです。

たとえば不動産を仮差押えした後に債務者が不動産を第三者に譲渡したとします。仮差押えをしていれば不動産の譲渡を受けた第三者にも対抗可能です。

訴訟などに時間がかかり財産がどうなるか分からないときなどに、保険として仮差押えを使うことがあります。

仮差押えの効力

仮差押えが認められると債務者の対象財産が処分禁止になります。不動産などは仮差押え後に処分自体は可能ですが、不動産の譲渡を受けた第三者に対抗できます。

なお、仮差押えはあくまで処分禁止、保全のための手続きです。仮差押えしたからといって即座に強制執行できるわけではありません。債権を回収するためには債権者が裁判などで債務名義を取得して、あらためて回収をはかるという流れになります。

仮差押えと差押えの違い

仮差押えと差押えは異なります。実務では仮差押えに対して差押えを本差押えなどと言うことがあります。

仮差押えと差押えの違いは次の通りです。

・仮差押えは民事保全法に基づいて行ない、差押えは民事執行法に基づいて行なう

・仮差押えは財産を保全する手続きだが、差押えは回収の手続きである

・差押えをするためには債務名義が必要である

・仮差押えは担保金を要するが差押えの場合は担保金が不要である

・仮差押えは対象にする財産に優先順位がある

債権者が仮差押えをしても、対象の財産から回収することはできません。仮差押えはあくまで財産を保全する手続きなので、回収まで進むことはできないのです。対して差押えは債務者の対象財産からの回収が可能です。

差押えをするためには確定判決や和解調書、調停調書、執行認諾文言付公正証書などの債務名義が必要になります。仮差押えには債務名義は不要です。仮差押えは迅速に債務者の財産を保全する手続きだからです。この他に、仮差押えをするためには担保金が必要であることに対して、差押えでは不要であるという違いもあります。

仮差押えと差押えの重要な違いとして、財産の優先順位があります。仮差押えは債務者にとって影響の小さい財産を優先して選ぶ必要があります。差押えにはこのような優先順位はありません。

仮差押えの手続きの流れ

仮差押えは申立書などの必要書類を裁判所に提出して行います。仮差押えの申し立てに際しては、仮差押えの要件を満たしている必要があります。手続きの大まかな流れは次の通りです。

・仮差押えの必要書類などを準備する

・裁判所に仮差押えの申し立てをする

・裁判所で仮差押えについて面接する

・仮差押えの担保金を供託する

・仮差押えの決定

仮差押えの要件

仮差押えはふたつの要件を満たしていないと使えません。したがって、仮差押えをする場合は裁判所への申し立て準備をすると共に、要件を満たしているか確認する必要があります。

・保全の必要性

・保全すべき権利

債務者の財産を保全する必要があることを裁判所に疎明しなければいけません。回収不能になるといったリスクがあるからこそ認められる手続きが仮差押えです。

反対に考えると、債務者が債権の回収に極めて協力的で、財産についても安心できる状態であれば仮差押えは許されないことになります。

債権者は保全の必要性を証明する必要はありませんが、疎明(一応確かであろうと推測させる)しなければいけません。

また、仮差押えは、金銭債権またはこれに換えることのできる債権を有していることが要件です。これについても疎明が必要になります。

仮差押えの対象になる財産と優先順位

仮差押えの対象は債務者の差押え禁止財産以外のすべての財産です。ただし、仮差押えはあくまで財産の保全を目的としているため、債務者への影響の小さい財産を優先的に選ぶ必要があります。

不動産は仮差押えをしても使用収益が可能です。対して預金は債務者の生活に影響し、売掛金は債務者の事業に影響を及ぼします。そのため、不動産があれば優先的に仮差押えをします。不動産がない場合や不動産の仮差押えが難しい場合は預金や売掛金への仮差押えを検討するという流れです。

仮差押えの必要書類

仮差押えの申し立てでは必要書類を提出しなければいけません。

不動産の仮差押えと債権の仮差押えでは必要書類が異なります。

【不動産仮差押命令申立の必要書類】

仮差押命令申立書

申立手数料 / 収入印紙、1件につき2,000円

当事者の資格証明書(3カ月以内のもの)

不動産登記事項証明書(全部証明、1カ月以内のもの)

固定資産評価証明書

証拠(疎明資料)の写し

郵便切手

また、立担保証明時に以下の書類が必要になります。

供託書とその写し

当事者目録

請求債権目録

物件目録

登記権利者・義務者目録

登録免許税用の収入印紙

【債権仮差押命令申立の必要書類】

仮差押命令申立書

申立手数料 / 収入印紙、1件につき2,000円

当事者,第三債務者の資格証明書(3カ月以内のもの)

証拠(疎明資料)の写し

債務者の住所又は本店及び登記された支店所在地の不動産登記事項証明書

郵便切手

第三債務者に対する陳述催告の申立書

その他(代理人許可申請書など)

また、立担保証明時に以下の書類が必要になります。

供託書とその写し

当事者目録

請求債権目録

仮差押債権目録

債権者宛の封筒(第三債務者の数だけ)

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仮差押えの管轄裁判所を確認する

仮差押えの申し立ては管轄裁判所に行います。管轄の裁判所は債務者の住所や本店所在地の地方裁判所です。この他に、仮差押えする財産のある地域を管轄する裁判所に申し立てることも可能です。仮に仮差押えの対象が不動産だとすると、不動産の所在地の裁判所に申し立てできます。

どの裁判所に申し立てるかは仮差押えする財産や事情により異なり、申し立ての際は検討を要します。

裁判所に仮差押えの申し立てをする

管轄の裁判所に必要な書類を提出し、仮差押えを申し立てます。

裁判所で仮差押えについて面接する

裁判官が債権者に仮差押えについて確認するため面接が行なわれます。

仮差押えを申し立てる際には疎明や債権について記載のある書類を提出します。しかし、必要書類の内容だけでは確認できないことも少なくありません。そのため、裁判官が債権者に質問や確認をする機会が設けられます。

なお、仮差押えは債務者の財産処分や隠蔽などを防ぐための処置ですから、債務者に手続きが知らされることはありません。債務者の面接はなく、裁判官が債務者の言い分を聞くこともありません。

仮差押えの担保金を供託する

仮差押えをするためには担保金を供託しなければいけません。

申し立ての際の面接が終わると裁判所から担保金について連絡があります。担保金は基本的に法務局への供託によって行いますが、別途裁判所に許可をもらって銀行保証書を提出することも可能です。担保金の供託期間は裁判所から連絡があった日を除いて1週間ほどが基本です。

担保金の額はケースにより異なります。不動産の仮差押えでは債権の15~20%ほどが目安です。債権を仮差押えする場合は回収したい債権の20~30%が目安になります。

仮差押え決定

担保金を供託したときの供託書正本あるいは銀行の保証書を期間内に裁判所に提出すると、仮差押えが実行されます。仮差押え決定の際は、債権者は特別な手続きを要しません。たとえば仮差押えの対象が不動産である場合は裁判所の嘱託で仮差押え登記が行なわれるなど、財産に応じて手続きが進みます。

仮差押えと差押えの手続きの違い

仮差押えと差押えでは債務名義の取得の要否などの点で手続きが違っています。

仮差押えは債務者に財産の処分を禁止する手続きです。手続きの際は確定判決や調停調書などの債務名義は必要ありません。しかし、差押えはそのまま回収に進むため確定判決などの債務名義を必要とします。よって、差押えをするためには債務名義が必要です。

債務名義は民事執行法20条に記載されています。

第二十二条

強制執行は、次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。

一 確定判決

二 仮執行の宣言を付した判決

三 抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判(確定しなければその効力を生じない裁判にあつては、確定したものに限る。)

三の二 仮執行の宣言を付した損害賠償命令

三の三 仮執行の宣言を付した届出債権支払命令

四 仮執行の宣言を付した支払督促

四の二 訴訟費用、和解の費用若しくは非訟事件(他の法令の規定により非訟事件手続法(平成二十三年法律第五十一号)の規定を準用することとされる事件を含む。)、家事事件若しくは国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(平成二十五年法律第四十八号)第二十九条に規定する子の返還に関する事件の手続の費用の負担の額を定める裁判所書記官の処分又は第四十二条第四項に規定する執行費用及び返還すべき金銭の額を定める裁判所書記官の処分(後者の処分にあつては、確定したものに限る。)

五 金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの(以下「執行証書」という。)

六 確定した執行判決のある外国裁判所の判決(家事事件における裁判を含む。第二十四条において同じ。)

六の二 確定した執行決定のある仲裁判断

七 確定判決と同一の効力を有するもの(第三号に掲げる裁判を除く。)

裁判の確定判決や調停調書、和解調書、支払督促などが差押えのために債務名義になります。債務名義は裁判など裁判所の手続きで取得するものがほとんどです。例外的に公証役場で作成した公正証書(執行認諾文言付公正証書)も債務名義になります。

差押え手続きは債務名義を取得してはじめてできる手続きなので、基本的に裁判などの債務名義を取得できる手続きを経て、その後に差押えという流れで進めます。債務名義の取得というプロセスを経る必要がある分、差押えの方が手続き全体にかかる期間は長くなります。

仮差押えまでの期間

仮差押えまでの期間は早ければ1週間ほどで完了します。

仮差押えは迅速に債務者の財産を保全、処分禁止にするための手続きです。手続きが終わらないうちに債務者が財産の隠蔽や処分をしてしまう可能性があります。よって、手続きも迅速に行われます。

仮差押えの効果が生じるタイミング

仮差押えの効果が生じるタイミングは対象の財産により異なります。

仮差押えの対象が不動産の場合は、仮差押えの登記が完了したタイミングで効果が生じます。預金が対象の場合は、預金のある金融機関に仮差押えの正本が到達したタイミングです。

仮差押えのメリット

仮差押えを使うメリットは3つあります。

・債務者の財産を保全できる

・債務者に秘密かつ迅速に手続きできる

・債務者に精神的なプレッシャーを与えられる

仮差押えは債務名義を取得するために時間をかけた裁判などの手続きをする必要がないため、債権者が迅速に使えるというメリットがあります。債務者が財産を処分しようとしているとき、差押えは準備が整っていないと使えません。しかし、仮差押えなら、危険を感じたときにすぐ対処可能です。

仮差押えをする際に債務者に知られてしまうと、債務者から先に財産の処分や隠蔽をされてしまう恐れがあります。仮差押えは債務者に秘密にして進められ、かつ、差押えなど他の手続きよりも完了まで迅速です。

仮差押えには債務者に精神的なプレッシャーを与えるというメリットもあります。

仮差押えは裁判所の手続きです。督促を無視する債務者でも裁判所が出てくると、返済に応じるケースも珍しくありません。仮差押えの後に訴訟を起こされるのではないかと怖くなる債務者もいます。仮差押えをすることで債務者に精神的なプレッシャーを与えることができ、訴訟などをすることなく解決することもあります。

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仮差押えのデメリット

仮差押えを使うデメリットも3つです。

・仮差押えの手続きに担保金が必要になる

・債権を回収できない可能性もある

・仮差押えには専門的な知識を要する

仮差押えの手続きを進めるためには担保金が必要になります。弁護士に依頼する場合は弁護士費用なども必要になるため、資金を準備できるかが問題です。

また、仮差押えをしたからといって、必ず債権を回収できるわけではありません。仮差押えには財産への優先権はないため、債務者が自己破産すると別の債権者から財産を持って行かれる可能性があります。仮差押えをしていても、債権を回収できないこともあるわけです。

仮差押えは迅速さが特徴にも関わらず手続きは複雑です。迅速に進めるためには専門知識や実務経験が必要になります。個人では難しい手続きです。

仮差押えを使うときの注意点

仮差押えを使うときの注意点は、デメリットでも挙げた専門知識を要する点です。

仮差押えの対象にする財産の調査、仮差押えの手続き全般は専門知識や実務経験がないと、スムーズに進めることが難しいのが実情です。仮差押えは迅速にできることがメリットですから、知識や経験の不足により仮差押えがスムーズにできなければメリットを活かせません。債務者に手続きを感づかれて、債権回収が困難になるリスクすらあります。

タイミングを逃さず迅速に進めるためにも、仮差押えは知識と経験を有する弁護士に依頼することをおすすめします。

まとめ

仮差押えは債務者の財産を迅速に処分禁止にする手続きです。仮差押えをすることにより債務者は対象の財産の処分や隠蔽、浪費が難しくなります。結果、債権者が回収するときに財産が処分されておりなくなっていた、という事態を防ぐことが可能です。

仮差押えは有効に使えば債権回収の成功率が上がります。しかしながら、利用の際には専門知識を要するなど、注意したいポイントもあります。仮差押えは専門家である弁護士に相談してください。

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    弁護士土屋勝裕
    弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士。長島・大野・常松法律事務所、ペンシルバニア大学ウォートン校留学、上海市大成律師事務所執務などを経て事務所設立。400件程度のM&Aに関与。米国トランプ大統領の娘イヴァンカさんと同級生。現在、M&A業務・M&A法務・M&A裁判・事業承継トラブル・少数株主トラブル・株主間会社紛争・取締役強制退任・役員退職慰労金トラブル・事業再生・企業再建に主として対応
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