強制執行の流れや手続きとは?必要な債務名義、申し立て前の事前準備や種類別の流れをわかりやすく解説

強制執行を行うには債権者が申し立てをする必要がありますが、必要書類の取得等、手続きや流れは複雑です。この記事では、強制執行に必要な手続きの流れを、申し立て前の事前準備と申し立て後の2つに分け、各手続きや流れをわかりやすく解説します。

強制執行とは

強制執行とは、債務者が借金等の支払いをしない場合に、債権者の申し立てにより、裁判所が債務者の財産を差し押さえて強制的に回収を行う手続きです。強制執行を行うには、債権者側が必要な書類を揃えて申し立てる必要があります。

強制執行の種類

強制執行は、何の支払いを目的とするかで「金銭執行」と「非金銭執行」の大きく2つに分けられます。

金銭執行

金銭執行は、金銭債権を回収するための強制執行で、大きく次の3種類に分けられます。この記事では、強制執行の中でも金銭執行の手続きや流れを解説します。

・不動産執行

・債権執行

・動産執行

不動産執行

不動産執行は、債務者所有の不動産が対象の強制執行です。債務者の土地や建物を裁判所が強制的に差し押さえて、競売によって換価し債権者に配当します。

債権執行

債権執行は、債務者が第三者に対して有する債権が対象の強制執行です。たとえば、債務者の給与を差し押さえる場合、債務者が会社(第三者)に有している、給与の支払いを受ける権利(給与債権)を差し押さえます。対象となる債権には、給与(上限額あり)・預金・売掛金・賃料・生命保険・有価証券等が挙げられます。

動産執行

動産執行は、債務者所有の動産が対象の強制執行です。現金・株券・貴金属・骨董品等の動産が対象になります。ただし、66万円までの現金等、債務者が生活する上で支障が出る動産は強制執行の対象外です。

非金銭執行

非金銭執行は、金銭以外の支払いを目的とする強制執行です。

・物の引渡し(明渡し)の強制執行

・作為・不作為の強制執行

・意思表示の強制執行

物の引渡し(明渡し)の強制執行

物の引渡し(明渡し)の強制執行は、不動産や動産の引き渡しを受ける権利があるのに債務者が応じない場合に採る手段です。たとえば、アパートの賃貸借契約終了後も、賃借人が退去せず部屋に住み続けている場合に強制執行を行います。

作為・不作為の強制執行

「作為」とは何かの行為をすること、「不作為」とは何かの行為をしないことを指し、作為または不作為が債務の対象になることがあります。たとえば、土地の賃貸借契約終了後も借主が土地を更地にしない場合、土地を更地にする行為を第三者の業者に依頼し、費用を借主に請求する形(代替執行)で強制執行を行う手段があります。

意思表示の強制執行

たとえば、不動産を購入し代金を支払ったのに、売主が所有権移転登記の手続きをしない場合は、意思表示の強制執行という手段が採れます。売主に実際に意思表示をさせるのではなく、移転登記の意思表示があったものとみなして移転登記を行います。

強制執行の大きな流れ

強制執行における全体の大きな流れは次のようになります。

1.債務名義の取得(訴訟等)

2.債務名義の執行文付与申請

3.債務名義の送達証明申請

4.強制執行の申し立て(申立書の提出)

5.強制執行(差押・競売・配当等)

強制執行は債権者が申し立てない限りは実行されません。強制執行の申し立てに必要なのが「債務名義」と呼ばれる文書です。そのため、事前準備として債務名義を取得する必要があります。これから、申し立て前の事前準備(1〜3)と申し立て以降(4・5)の2つに分けて、必要な手続きや流れを解説します。

強制執行を申し立てる前に必要な手続きや流れ

強制執行の申し立てに必要な書類を揃えるには次の手続きが必要です。

1.債務名義の取得(訴訟等)

2.債務名義の執行文付与申請

3.債務名義の送達証明申請

債務名義とは

債務名義とは「強制執行をする根拠となる債権債務等を記載した公の文書」です。

(引用:裁判所ホームページより)

債務名義には、主に次の種類があります。

・確定判決

・仮執行宣言付判決

・仮執行宣言付支払督促

・確定判決と同一の効力を有する文書(和解調書・調停調書等)

・公正証書(強制執行認諾文言付) 等

1.債務名義の取得

債務名義の取得には、主に次の方法を債権者が採る必要があります。

通常訴訟

通常訴訟とは、民事間の揉め事を法的に解決するための訴訟手続を指し、一般的にイメージされる裁判のことです。通常訴訟によって次の債務名義が取得できます。

・確定判決:確定した判決(上訴や取下ができない判決)

・仮執行宣言付判決:相手方が控訴しても暫定的に強制執行ができる判決

・和解調書:裁判上で和解に至った場合に、裁判所書記官が和解とその内容を記載した調書

少額訴訟

少額訴訟とは、60万円以下の金銭債権に限って利用できる訴訟手続を指し、1度の審理で判決が出るのが特徴です。後述するように、債務名義には執行文の付与が必要ですが、少額訴訟で取得できる「少額訴訟確定判決」や「仮執行宣言を付した少額訴訟判決」は執行文の付与が必要ありません。

支払督促

支払督促とは、債権者の申し立てにより簡易裁判所が債務者に支払督促を発布する手続きです。債務者が支払いや異議申し立てをしない場合に、債権者が仮執行宣言を申し立てれば発布される「仮執行宣言付支払督促」は債務名義に含まれます。少額訴訟確定判決と同じく、執行文の付与は不要です。

民事調停

民事調停は、相手を訴えるのではなく、裁判所(調停委員会)のあっせんのもとで当事者間の話し合いにより円満な解決を図る手続きです。合意に至ると作成される「調停調書」は債務名義に含まれます。

公正証書の作成

公正証書は、全国の公証役場で公証人が作成する文書です。公正証書が債務名義として認められるには、強制執行認諾文言(強制執行を認める文言)の記載が必要です。

2.債務名義の執行文付与申請

債務名義を取得したら、執行文を付与する必要があります。「執行文」とは、債務名義に強制執行ができる効力があると公的に証明する文書です。債務名義には執行文が付いていないので、裁判所や公証役場に「執行文付与申請書」を提出して、執行文の付与を依頼します。

執行文付与申請書の提出先

・執行証書:公正証書の原本を保管している公証役場

・それ以外:当該事件記録が存在する裁判所

ただし、債務名義が少額訴訟確定判決や仮執行宣言付少額訴訟判決、仮執行宣言付支払督促の場合は、執行文の付与は不要です。

3.債務名義の送達証明申請

強制執行にあたっては、債務名義の正本または謄本を、あらかじめまたは同時に、債務者に送達する義務があります(民事執行法第29条)。債務者に債務内容を知らせて反論や支払いの機会を与えるためです。

そのため、申立書の必要書類には、債務者に債務名義を送達したと証明する送達証明書が必要となります。送達証明書は、当該事件記録が存在する裁判所に「送達証明申請書」を提出して取得します。

債務名義が送達されていない場合

判決書や仮執行宣言付支払督促等は、裁判所が債務者等の当事者に送達するよう義務づけられています(民事訴訟法第255条)。
しかし、債務名義が調停調書や和解調書、認諾調書等の場合、裁判所に送達申請書を提出しないと送達されないため、送達の申請が必要なこともあります。
送達の申請には、当該事件記録が存在する裁判所に「債務名義等送達等申請書」を提出しますが、同時に「送達証明申請書」の提出も可能です。

債務名義が公正証書の場合は、公正証書の原本を保管している公正役場に特別送達申立てを済ませた後で送達証明書の交付を受けます。

強制執行の申し立てに必要な手続きや流れ(種類別)

事前準備として必要書類を入手したら、強制執行を申し立てます。この記事では、不動産執行・債権執行・動産執行の3つについて、必要な手続きと流れを解説します。

不動産執行の手続きや流れ

不動産執行は次の流れで手続きをします。申立書の提出から配当まで1年程度かかるのが一般的です。

1.「不動産強制競売申立書」の提出

2.「競売開始決定」の発令・差押え

3.不動産調査・競売準備

4.競売

5.引き渡し・配当

1.「不動産強制競売申立書」の提出

債権者は「不動産強制競売申立書」に「執行力のある債務名義正本」「送達証明書」を付して、管轄裁判所に不動産執行を申し立てます。管轄裁判所、費用、その他提出書類は以下の通りです。

管轄裁判所

管轄裁判所は、不動産の所在地を管轄する地方裁判所です。

費用

下記の費用がかかります。

・申立手数料(収入印紙):4,000円(担保権または請求債権1個につき)

・予納郵券:東京地裁例.84円切手+10円切手1組(裁判所により異なる)

・登録免許税:確定請求債権額の1000分の4

・予納金:金額は裁判所により異なる

その他提出書類

「申立書」「執行力のある債務名義正本」「送達証明書」のほかに下記の提出書類が必要です。

a.不動産登記事項証明書(発行1か月以内)

b.公課証明書

c.商業登記事項証明書(発行1か月以内、当事者が法人の場合)

d.住民票(発行1か月以内、当事者が個人の場合)

事案によって必要となる書類(e~g)

e.委任状

f.破産管財人資格証明書(当事者が破産管財人の場合。破産者が法人かつ商業登記事項証明書に記載があれば不要)

g.管理規約写し等の資格証明書(マンション管理組合による申し立ての場合)

h.特別売却に関する意見書

現況調査等に必要な書類(i~l)

i.公図写し

j.建物図面(発行1か月以内)

k.物件案内図

l.不動産競売の進行に関する照会書

2.「競売開始決定」の発令・差押え

裁判所は申立書を審査した上で競売開始決定を発令し、対象の不動産には法務局が「差押」の登記をします。債務者と不動産所有者には競売開始決定の通知書が送達されます。

3.不動産調査・競売準備

裁判所執行官は評価人(不動産鑑定士が多い)と現地を訪問して不動産の現況調査をし、「3点セット」と呼ばれる下記の書類を作成します。裁判所は評価人の評価をもとに、売却基準価額を設定します。

・現況調査報告書:不動産の現状や占有者の情報等が記載、写真添付

・評価書:評価額や周辺環境等が記載、図面添付

・物件明細書:継続すべき賃借権の有無等の法律関係情報が記載

4.競売

裁判所書記官が対象不動産の競売日時・方法等を決定します。通常は、競売第1回目は期間入札が行われます。競売にて最高額で落札し売却許可を受けた買受人が売却代金を納付後に、裁判所が必要な登記の手続きを行います。

5.引き渡し・配当

売却代金が納付されると、裁判所は配当期日を決定し、各債権者に「配当期日呼出状及び計算書提出催告書」を送達します。
債権者はこの催告書の受領日から1週間以内に、利息等を確定させて債権額を記載した「債権計算書」を提出しなければなりません。
各債権者から提出された債権計算書をもとに裁判所は配当表を作成し、配当異議の申出等がなければ配当手続きが実施されます。

債権執行の手続きや流れ

債権執行は次の流れで手続きをします。申立書の提出から取り立てまで1か月程度かかるのが一般的です。

1.「債権差押命令申立書」の提出

2.「債権差押命令」の発令

3.取り立て

1.「債権差押命令申立書」の提出

債権者は「債権差押命令申立書」に「執行力のある債務名義正本」「送達証明書」を付して、管轄裁判所に債権執行を申し立てます。管轄裁判所、費用、その他提出書類は以下の通りです。

管轄裁判所

管轄裁判所は、債務者の住所地を管轄する地方裁判所です。

費用

下記の費用がかかります。

・申立手数料(収入印紙):4,000円(債権者1名・債務者1名・債務名義1通の場合)

・予納郵券:東京地裁例.3,495円分(債権者1名・債務者1名・第三債務者1名(社)の場合。裁判所により異なる)

その他提出書類

「申立書」「執行力のある債務名義正本」「送達証明書」のほかに下記の提出書類が必要です。第三債務者に対する陳述催告は、必ず申し立てる必要はありませんが、債権の存否等を知って手続きの参考にしたい場合には申し立てます。

a.資格証明書(申立日から1か月以内・債権者は2か月以内で可、当事者が法人の場合)

b.当事者の住所氏名に変更があれば住民票等(申立日から1か月以内・債権者は2か月以内で可)

c.第三債務者に対する陳述催告の申立書(申し立てる場合)

2.「債権差押命令」の発令

裁判所は申立書を審査した上で、「債権差押命令」の正本を第三債務者・債務者の順番に送付します。
第三債務者とは、差押え対象の債務者が債権を有している債務者のことです。
債務者の給料を差し押さえる場合、債務者は会社に対して給与の支払いを受ける給与債権を有するため、会社が第三債務者となります。

差押命令の送付後、裁判所は債権者に「送達通知書」を郵送し、第三債務者と債務者への差押命令の送達日または不送達の旨を通知します。

債権者が陳述催告を申し立てた場合、第三債務者は差押命令の送達日から2週間以内に、裁判所へ「陳述書」提出の義務があります。陳述書には、債務者に支払う給与や賞与の金額等の必要事項を記入します。陳述書は裁判所から債権者にも送付されます。

3.取り立て

債権者が差し押さえた金銭等を第三債務者から受け取れるのは、送達通知書に記載された債務者への送達日から1週間(給与債権は4週間)が過ぎてからです。
債権者は自ら、第三債務者に連絡し支払方法等を相談する必要があります。
第三債務者が差し押さえた金銭を供託した場合は、裁判所が債権者に連絡し配当などの手続きをします。

動産執行の手続きや流れ

動産執行は次の流れで手続きをします。

1.「動産執行申立書」の提出

2.動産執行の日時決定

3.動産執行

4.競売・配当

1.「動産執行申立書」の提出

債権者は「動産執行申立書」に「執行力のある債務名義正本」「送達証明書」を付して、管轄裁判所に動産執行を申し立てます。管轄裁判所、費用、その他提出書類は以下の通りです。

管轄裁判所

管轄裁判所は、債務者の住所地を管轄する地方裁判所です。

費用

予納金(金額は裁判所により異なる)がかかります。

その他提出書類

「申立書」「執行力のある債務名義正本」「送達証明書」のほかに下記の提出書類が必要です。動産執行申立書には「執行の立会い」の有無の記載欄があり、立ち会いを希望するなら「有」を記載します。

a.資格証明書(申立日から1か月以内・債権者は2か月以内で可、当事者が法人の場合)

b.債務者に関する調査票(裁判所ホームページよりダウンロード可)

c.執行場所の案内図

(裁判所保ホームページより)

2.動産執行の日時決定

裁判所の執行官は申し立てを審査した上で、債権者と面談し動産執行の日時や待ち合わせ場所等を決定します。

3.動産執行

執行日、債権者が立ち会いを希望した場合は、執行官と待ち合わせ場所で合流して債務者の自宅や店舗等を訪問します。
執行官は自宅等に入って、換価できそうな動産を差し押さえます。債権者は玄関から先には入れません。
玄関の外で待機して、執行官の報告を聞いて差し押さえる動産の判断や、玄関先から債務者へ支払いの促し等は可能です。

4.競売・配当

動産執行後、執行官は差し押さえた動産を競売手続きによって換価し債権者に配当します。
差し押さえた動産の中に現金があれば直接受け取りが可能です。
執行日に動産を売却する場合、同行させた専門業者や債権者による現地購入等の方法が採られることもあります。

強制執行には事前の財産調査が不可欠

強制執行の申し立てには債権者が対象財産を特定する必要があるため、事前の財産調査が不可欠です。しかし、一般人が他人の財産を網羅的に調査するのは難しいという現実があります。

財産開示手続とは

このような問題への対応策として活用可能なのが「財産開示手続」です。
財産開示手続とは、執行力のある債務名義を有する債権者の申し立てにより、裁判所が債務者を出頭させて財産に関する陳述を行わせる制度です。
ただし、財産開示手続による債務者財産の開示後は、原則3年間は再開示できないので、計画的な利用が推奨されます。

第三者からの情報取得手続

ほかにも、執行力のある債務名義を有する債権者が裁判所に申し立てれば、債務者以外の第三者から、下記の情報を提供してもらえる「第三者からの情報取得手続」という制度もあります。

情報の種類 入手できる情報 問い合わ先の第三者
不動産情報 債務者名義の不動産の所在地・家屋番号 東京法務局
勤務先情報 債務者への給与支給者 市区町村または厚生年金を扱う団体
預貯金情報 債務者の預貯金口座(支店名・口座番号・金額) 金融機関
株式情報 債務者名義の上場株式等の銘柄・数等 金融商品取引業者等

強制執行が失敗するケース

強制執行が失敗するケースとしては次の原因が考えられます。

・十分な財産調査がなされず、債務者の財産が分からない

・債務者に財産がない(自己破産申し立てなど)

・債務者が占有していた財産が他人名義だった

・自分の他にも債権者がいて、差押え後の配当で全額回収できなかった

債務者に財産がない・少ない、債務者の財産状況が不明な場合は、強制執行が空振りとなりかねません。
このような失敗は事前の財産調査で防げる可能性があるため、財産開示手続の活用等、万全の対策を講じる必要があります。

債務者が財産を処分しないよう仮差押えを

事前調査で債務者の財産を把握できても、調査後に債務者が財産を処分する可能性があります。
債務者の保有財産が明らかである場合に、債務者が財産処分を一時的にできないように債権者が行える手続きが「仮差押え」等の保全手続です。
債権者が裁判所に申立書を提出し、裁判所での審理後に担保金を供託すれば、通常1週間程度で債務者の財産が仮差押えされます。

債務者の保有財産が明らかで、債権者が債務名義を取得できていない場合は、直ちに保全手続きを検討しましょう。

まとめ

強制執行の実施には、債務名義の取得など多くの手続きが必要で流れも複雑です。一般人が全ての手続きを自力で行うにはハードルが高いと言えます。
特に、債務名義の取得には通常訴訟等の法的手段が必要なため、最初の段階から専門家である弁護士に依頼し、全体の流れを踏まえたアドバイスを受けながら進めていくことが推奨されます。

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    弁護士土屋勝裕
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